あがり症の治療薬

本郷三丁目・植村クリニックにおける、あがり症の治療薬についてご説明します。私(植村院長)が平成13年に大津であがり症の治療を開始して以来、これまでに約1万人のあがり症の患者さんを診てきました。薬の使い方は症例を重ねるにつれて少しずつ変わってきています。10年位前までは私も積極的にSSRIを処方しましたが、最近5年間は以下のようになってきています。SSRI主体の治療を行う心療内科・精神科とは、かなり異なるだろうと思います。

βブロッカー (ベータ遮断薬)

βブロッカーは交感神経の興奮を遮断する心臓関係の薬です。動悸や震えを強力に抑制します。血圧を下げる作用もあります。緊張場面の前に頓服で服用しておけば、動悸と震えには奏功します。不安や緊張を直接改善する作用はありません。当クリニックで最も多く処方される薬です。

βブロッカーは安全性の高い薬で、健康な人が服用しても副作用はほとんど問題になりません。ただし、気管支喘息や心臓病のある時は使用できない場合があります。

当クリニックでは、患者さんの症状や状況に合わせて、数種類のβブロッカーを使い分けています。作用時間が長めのタイプ、早く効くタイプ、妊娠中や授乳中でも服用可能なタイプ、喘息の人でも比較的服用しやすいタイプなど、色々あります。当方の患者さんで2種類以上のβブロッカーを状況に応じて、上手に使い分けている方は珍しくありません。

βブロッカーを正しく使用すれば、副作用も問題になることもなく、プレゼンや面接、挨拶などにも自信を持って臨むことができるようになります。その結果、前向きな気持ちで積極的な人生を歩むことができるようになり、仕事上の評価も高まり着実に昇格されていく方が大勢おられます。

抗不安薬

不安・緊張を和らげ、気分をリラックスさせる作用があります。いわゆる精神安定剤のことです。緊張場面の前にベータブロッカーなどと一緒に服用します。筋肉をリラックスさせる作用もあるので、顔や手のこわばりにも効果がみられます。乱用すると依存症になる危険性があるので、必要最小量を服用します。

SSRI

SSRIは 抗うつ薬 の一種で、脳内のセロトニン神経の機能を高め、憂うつ気分や不安感を改善する作用があります。当クリニックでは現在は処方されていませんが、症状の重いあがり症では重要な治療薬となりますので、ここに取り上げます。

SSRIは約20年前に国内で初めて発売されました。安全性の高い抗うつ剤というのが売り物でしたが、それは従来の抗うつ剤に比べて安全という意味で、副作用が少ないということではありません。うつ病以外にパニック障害、強迫性障害等の治療にも使用されています。

あがり症の治療では、例えば引きこもり気味などの比較的症状の重い患者さんで効果を発揮します。あがるのが不安で学校を休んだり、会社を休んだりするような人もSSRIを試してみる価値があるでしょう。抗不安薬に頼りすぎて依存症になりそうな人も、SSRIを併用するほうが良いかもしれません。ただし、軽症のあがり症の患者さんが安易に服用すべき薬ではありません。緊張場面があって心配な日でも、学校も職場も休まず行けているような人ならば通常、SSRIを服用する必要はありません。

その他の薬

βブロッカーや抗不安薬を十分処方しても手の震えが完全に取れないときは、抗不安薬の代わりにてんかんの薬を使用して効果が得られることもあります。多汗症の方には汗止めを処方することもあります。汗止めは緑内障があったり、前立腺肥大があると使用できません。