あがり症は治るか? 

「あがり症は治りますか?」「薬をやめることはできますか?」この二つが初診の患者さんから出る質問で最も多いものです。あがり症の原因は色々ありますから、原因によって回答は微妙に異なります。原因別に回答を記載してみましょう。

【本態性振戦】

本態性振戦の人は、日常生活の緊張していない場面でも手などが震えます。人前で緊張するとその震えが強くなり、それを気にすると更に悪化して動悸も加わり、あがり症へと進行します。βブロッカーの内服が動悸・震えに奏功しますが、薬が切れると、また震えます。本態性振戦は病気というよりも体質のようなもので、治ることはありません。緊張していなくても震えてるわけですから、緊張場面で薬なしで震えないという目標は無理があります。ただし、薬を少しずつ減らしていくことは可能です。薬以外の治療としては、脳外科の脳定位手術で脳の深部を破壊すると、緊張しても震えなくなります。最近は集束超音波治療という、より安全な新しい治療法が開発されてきています。

【老人性振戦】

本態性振戦が高齢者に発症したものと考えられます。治療法は本態性振戦と同じですが、高齢者は持病等のため、薬の十分量を使えないことがあり、薬の効果が低下する場合があります。一種の老化現象でもあり、薬なしでも震えなくなるということは期待できません。

【生理的振戦】

普段は震えない人が、強い不安・緊張などを感じた時に震えるものです。震えやすさに個人差があって、同じような緊張状態でも震えない人と、震えやすい人がいるわけです。寒いと震えるようなもので、病気ではありません。病気ではないということは、そもそも治すようなものではないということです(すなわち、治らないということです)。

生理的振戦は本態性振戦の軽いものとも考えられ、やはりβブロッカーが奏功します。薬を減らすことは可能ですが、どんな緊張場面でも薬なしで震えない、という目標は取り下げた方が良いでしょう(どんなに寒くても震えないという目標と同じです)。それでも、頑張って薬を減らしていくとだんだんと自信がついてきます。朝礼のスピーチ位は薬なしで大丈夫とか、100人位なら薬なしで大丈夫などという人もでてきます。このように症状は改善可能ですから、希望を持って治療に取り組んで頂きたいと思います。

【甲状腺機能亢進症】

この病気では甲状腺ホルモンが過剰に作られ動悸や手の震えが出現します。精神的にも不安定になって、あがり症だと思って受診する人がいます(主に女性)。βブロッカーを服用すれば、動悸・震えは改善しますが、大切なことは、内科でしっかりと甲状腺の治療を受けることです。甲状腺機能が正常化すれば、動悸や震えは治まり、精神的にも落ち着きを取り戻します。ただし、一部の人は甲状腺が治っても、あがり症が続く場合があります。

【発汗恐怖症】

大部分は皮膚科の限局性多汗症という病名がつきますが、汗かきの体質と考えれば良いでしょう。汗止めが効きますが、体質的な問題ですので、薬をやめれば、また発汗が再発する可能性が高いです。たまに、加齢により発汗の減る人もいるようです。限局性多汗症ではないのに、精神的緊張による発汗に悩んでいる人もいます。このタイプの発汗はβブロッカーが奏功し、加齢とともに薬なしでも大丈夫になることが多いです。

【社交不安障害】

人々から注視されることを恐れ、そのような状況を回避しようとする精神科の病気です。例えば重症の人では、失敗を怖れるあまり、学校や会社に行けなくなる人もいます。アルコール依存症や、うつ病を合併する場合もあるので、精神科できちんと治療を受ける必要があります。治療目標は薬(特にSSRI)を十分に服用してでも恐怖感を軽減し、通常の社会生活を送れるようにすることにあります。無事に通学や就労ができるようになり、環境に恵まれれば、薬を減らしたり、場合によっては中止することも可能となるでしょう。